「バイオフィリア」と植物があなたの健康をささえる話

作 成 兵庫県立大学大学院 緑環境景観マネジメント研究科 / 兵庫県立淡路景観園芸学校 園芸療法課程

豊田 正博

空気浄化効果が報告されている観葉植物の例

発 行 全国鉢物類振興プロジェクト協議会
京都中央区東日本橋3-6-17 山一ビル4階 一般財団法人 日本花普及センター内

*本冊子は、次世代国産花き産業確立推進事業における鉢物類効用調査の一環として作成しました。
内容はQRコードからもダウンロード可能です。

人は生まれつき自然や生きものが好き

ハーバード大学のウイルソン教授らは「人は生まれつき自然や動物、植物との結びつきを 好む」
というバイオフィリア仮説を提唱した。*1 バイオは生命、フィリアは愛情の意味。

サバンナの景観を好む人が生き残り世界に広がった

テキサスA&M大学のウルリヒ教授は「木々が点 在して見通しがきき、森林より安全で水や食物に 恵まれたサバンナ(草原)は人にストレス回復を もたらした。サバンナのような緑がある景観を好 む傾向が現代人にも遺伝的に受け継がれてい る」と考えた。*2 この仮説は植物のストレス回復 効果が誰にも有効であることの根拠となってい る。

*1: Kellert S R and Wilson E O(Eds.) 1993. The biophilia hypothesis. Island Press.
*2: Ulrich R S. 1993. The biophilia hypothesis. Biophilia, biophobia,and natural landscapes. Island Press.

自然の風景・無機質な風景の違い

人為的にストレスをかけて血圧をあげた人に車の往来のビデオを見せても血圧は下がらないが自然の風景のビデオを見せると3分で血圧が急激に下がりその効果は持続するという報告もある。*3

共感を生む植物とミラーニューロン

人は植物を見ると「きれい」「かわいい」などの快感情がわき笑顔になる。同じ植物を見た他者にも同じ感情が起こり共感が生まれる。これには他 者の行動・発言に対して自分の脳内でも同様の領域が反応して同じ気持ちを共有するしくみ(ミラーニューロン)*4が関係している。

*3: Ulrich R S, et al. 1991. Stress recovery during exposure to natural and urban environments. Journal of environmental psychology. 11(3)201-230.
*4: Gallese. 2003. The manifold nature of interpersonal relations: the quest for a common mechanism. Philosophical Transactions of the Royal Society of London B: Biological Sciences. 358(1431)517-528.

部屋の中にこそ植物を

植物を室内の目に触れる場所で育てるとストレス軽減につながる。疲れた時やストレスを感じ た時、自分の気に入った植物を3分間「ぼーっと」見ることでストレスは下がる。(詳細はP11ページ) 子育て中のイライラなどにも試してほしい。また、いくつかの観葉植物は、適切な明るさで育てると二酸化炭素濃度の上昇抑制*5や、有害揮発性有機化合物の吸収*6が期待できる。

光合成が室内環境を改善

光合成は植物細胞内の葉緑体が、空気中の二酸化炭素と土壌中の水分から光エネルギーを利用して炭水化物と酸素を作るしくみ。この時、揮発性有機物質なども葉や鉢土から吸収し分解する。

*5: Torpy F R. et al. 2014. Profiling indoor plants for the amelioration of high CO2, concentrations. Urban Forestry & Urban Greening. 13:227-233.
*6: Cruz M D. et al. 2014. Can ornamental potted plants remove volatile organic compounds from indoor air? ‒ a review. Environmental Science and Pollution Research. 21(24)13909-13928.

キッチンやダイニングで役立つ植物

キッチンやダイニングでは、低照度に強く、揮発 性有機化合物の吸収に優れるヘデラ、トラデス カンチア、ホヤ*7がおすすめ。LED照明があれば華やかな底面給水型コチョウランもよい。

*7: Yang D S. et al. 2009. Screening Indoor Plants for Volatile Organic Pollutant Removal Efficiency. HortScience 44(5)1377-2009.

LEDライトと共にどこにも置ける植物

夜間のCO2濃度を下げる植物

エントランスは会社の顔

お客様への印象はもちろんだが、オフィスで働く人たちの作業効率を「植物の力」でアップしよう。みどり豊かな仕事環境は、従業員の健康に配慮して生産性を向上させる健康経営につながる。

“まとまり”は人が好む景観の要素の一つ*8

エントランスとオフィスをつなぐ廊下にも植物が並んでいることでオフィス全体としての“まとまり”が生まれる。エントランスからの心地よい気持ちを維持したままオフィスに到着できる。

*8 : Kaplan, R., Kaplan, S., & Ryan, R. 1998. With people in mind: Design and management of everyday nature. Island Press.

緑色と脳波

葉の緑色は他の色に比べて視覚的刺激が少ない。そのため、脳が覚醒している時に見られるβ波が後頭部で減少する。一方、ピンク色の花を見ている時はβ波が後頭部で増加し、高揚感が高まる。*9

*9 : 金恩一, 藤井英二郎. 1994.植物の色彩の生理・心理的効果に関する基礎的研究.ランドスケープ研究. 58(5)141-144

緑視率の話

緑視率とは人の視界に占める自然の緑の割合で人の心理や生理に影響を与える。最適な緑視率についていくつか報告があり、3.1%が最適*10、あるいは5%あればリラックス効果があるといった報告*11がある。

*10 : 橋本幸博, 鳥海吉弘. 2014. 被験者実験による模擬執務空間の最適な 緑視率の検討. 日本建築学会計画系論文集. 79(700)1309-1314.

*11 : Choi, J.Y. et al. 2016. Physiological and psychological responses of humans to the index of greenness of an interior space. Complement. Ther. Med. 28:37‒43.

CO2濃度

空気中のCO2濃度は通常400~800ppm程度。40,000ppm程度で頭痛、めまい、血圧上昇、60,000ppmで呼吸困難になる。植物は光合成により空気中のCO2を吸収する。暗くても明るくてもよく光合成を行うのはベンジャミナやアレカヤシ。暗い所でよく光合成を行うのはケンチャヤシ、テーブルヤシ。*5シェフレラ、インドゴムノキ、パキラも暗くてもよく光合成を行う。*12

*5 : Torpy F R. et al. 2014. Profiling indoor plants for the amelioration of high CO2 concentrations, Urban Forestry & Urban Greening. 13:227-233. *12 : ソン(著), 豊田(監). 2014. 室内植物があなたを救う. 農文協.

脳と身体が休まる時 アイデアが生まれる

休憩室は、オフィス(仕事)から離れたことを五感を通して脳に理解させる場所。無機的な環境や、人が多い環境で長時間過ごす人にとって、緑に囲まれて、「いつもの日常から離 れている」という感覚はストレス回復のための大切な要因。*13 視覚的な美しさだけでなく、水が流れる音や鳥の声など自然の音、あるいはハー ブの香りなど聴覚や嗅覚を通して人を魅了する要素も大切。心地よい複数の刺激に注意を向け何も考えずその刺激を感じよう。脳も身体も休まり、ひらめきも生まれやすい。

*13 : Kaplan R and Kaplan S. 1989. The Experience of Nature A Psychological Perspective. Cambridge University Press. 183-186.

植物はコミュニケーションツール

バイオフィリア仮説によれば、植物は、私たち人の誰もが好意的に感じる対象である。私たちは、男女や年齢に関わらず、きれいな植物を見ると緊張がほぐれて自然と表情が和らぐ。
「きれい」「かわいい」「早く大きくなあれ」などと口にしても、異論を唱えることなく「そうだね」と共感的に答える。このように、私たちは植物がコミュニケーションを促すツールとなることを経験的に知っている。

仕事に疲れたら3分間何も考えずに好きな植物を見よう

これを毎日続けると心理的ストレスが減少し脈 拍も下がる。疲れるたびに席を離れるのは気が 引けるもの。この方法は席を離れずにストレス をクールダウンできる。

ポイントは、自分が気に入った植物であること ( 観葉・鉢花・サボテン・多肉・エアプランツなどから選ぶとよい)、邪魔にならない大きさであること、何も考えずボーっと見ること、そして、自分で世話をすることの4つ。

自分で育てるうちに愛着がわき、同じ植物でも見飽きることなくストレス減につながる肯定的な感情が続く。*14

*14 : Toyoda M. et al. 2019. Potential of a Small Indoor Plant on the Desk for Reducing Office Workers’ Stress. HortTechnology. 1(aop) 1-9.

植物が会議を効率化

出席者の視界に植物があると緊張がほぐれ、誰もが話しやすい場が生まれる。植物があると目のやり場(焦点)となり、*15集中力の維持を助ける。こうした雰囲気ではアイデアが生まれ、会議が能率的に行える。

植物が仕事の生産性を高める

人はストレスから回復した状態で高度な認知機能を発揮しやすい。例えば集中力が高まり、ミスが減る。*16他にも、作業能率が上がり残業時間が減る効果が考えられる。

*15 : 佐藤仁人ら. 1990. 執務空間における視環境要因の人間心理に与える影響評価(続報). 日本建築学会計画系論文報告集. 417. 11-17.
*16 : Raanaas R k. et al. 2011. Benefits of indoor plants on attention capacity in an office setting. Journal of Environmental Psychology. 31(1)99-105.

精疲労や肩こりを減らす

VDT症候群はコンピュータのディスプレイなど表示機器(総称してVisualDisplayTerminalと呼ばれる)を使用した作業(VDT作業ともいう)を長時間続けることで、目や体、心に生じる症状である。ドライアイ、充血、眼精疲労、首・腰・肩のこり、だるさ、痛み、手指のしびれ、食欲減退、イライラ、不安、抑うつなどの症状がある。こうした症状は、ディスプレイ周辺の作業者の視界に植物を置いて眺めることで軽減される。*17

*17 : Lee, J. et al. 2000. Effects of indoor plants on alleviation of symptoms of the worker's visual display terminal syndrome. Journal of the Korean Society for Horticultural Science. 41(6) 657-661.

軽い運動は体をほぐして気分を変える

植物を育てるガーデニングは、人に多様な運動の機会をもたらす。ガーデニング作業の多くは、低強度(1~3METs未満)から中強度(3~6METs未満)にあたる。*18日常的に行えるかん水、観葉植物の葉を拭く作業、花がら・枯葉を取り除く作業などは、低強度の運動に該当し、大きな負荷にはならない。同じ動作を繰り返す作業は身体の緊張をほぐし、よい気分転換になる。

*18 : Park S. 2011. Determing Exercise Intensities of Gardening Tasks as a Physical Activity Using Metabolic Equivalents in Older Adults. HortScience. 46(12)1706-1710.

植物にあって空気清浄機にない CO2 浄化機能

植物が光合成を行う時、CO2を吸収する。この光合成に必要な明るさは植物によって異なる。明るい部屋でも暗めの部屋でもよく吸収するのは、アレカヤシやベンジャミナ、マランタ,シンゴニウム、ポトス,ディフェンバキア。明るい部屋で吸収がよいのはアンスリウム。暗めの部屋では、チャメドレアヤシ、ホヤだ。*5,19明るい部屋とは700lux、暗めの部屋とは300luxが目安。

O3の吸収

コピー、レーザープリンタなどのオフィス機器はごく微量のO3が発生する。0.01~0.02ppm程度であれば健康への害はないが、0.1ppmを超えると鼻やのどに刺激を感じる。O3の吸収にすぐれるポトスやスパティフィラムはオフィス機器の周辺に置きたい。*20

*5 : Torpy F R. et al. 2014. Profiling indoor plants for the amelioration of high CO2, Urban Forestry & Urban Greening. 13(2)227-233.

*19 : Suhaimi M M. et al. 2016. Effectiveness of Indoor Plant to Reduce CO2 in Indoor Environment. MATEC Web of Conference. 103, 05004.

*20 : Abbass O A. et al. 2017. Effectiveness of indoor plants for passive removal of indoor ozone. Building and Environment. 119:62-70.

揮発性有機化合物の吸収効率がよい植物

植揮発性有機化合物(VOC)とは常温常圧で大気中に揮発するトルエン、ベンゼン、フロン類、ホルムアルデヒドなどで、塗料、印刷インク、接着剤、洗浄剤などに含まれシックハウス症候群(目がチカチカする、鼻水、頭痛、吐き気など)の原因となる。実際にVOCの吸収は、植物と植物が植えられている鉢土から行われる。除去効果が高いものにヘデラ、トラデスカンチア、ベンジャミナ、サンセベリア、グズマニアなどがある。*21。特に、ホルムアルデヒドの除去にはタマシダ、ポットマム、フェニックスヤシが有効。*22

*21 : Yang D S. et al. 2009. Screening Indoor Plants for Volatile Organic Pollutant Removal Efficiency. HortScience. 44(5)1377-1381.

*22 : Wolverton B C and Wolverton J D. 1993. Plants and Soil Microorganisms: Removal of Formaldehyde, Xylen, and Ammonia from the Indoor Environment. Journal of The Mississippi Academy of Sciences. 11-15.